ここなっつぴぃす

紡いだ夢の先へ

舞台「漆黒天ー始の語りー」 観劇記録

 

舞台「漆黒天ー始の語りー」

サンシャイン劇場

 

8月19日(金)

開演 13:00

終演 15:16

 

宇内陽之介・旭太郎:荒木宏文

邑麻二郎太:松田凌

邑麻三郎太:長妻怜央

富士:小宮藤子

嘉田蔵近:梅津瑞樹

千明伽羅:橋本祥平

須万蒿雀:松本寛也

真嶌千蛇:加藤大

皿月壬午:小澤雄太

玖良間士道:鈴木裕樹

 



~ダブルアンコ~

(並び順)

松本 富士 長妻  荒木  松田 梅津 祥平 大悟

 

律儀なお辞儀をする怜央と女方を意識して高めの位置でお辞儀をする大悟くん。

 

 

 

新型コロナウイルスの影響で、続々と公演中止の「ご一読下さい」が耳に入るご時世。テニミュ、クラウディア、ヒプステ、ドクステ、ドラマティカ、ワーステ、ゲゲステ、エーステ、双騎、クアンタム・・・もっとたくさんあるだろう。漆黒天も例外ではなく、初日と2日目を終えてから10日の月日が流れ、昨日からようやく再開することができた。

改めて公演ができること、出演者の方のツイートが毎日更新されることのありがたみを感じた期間だった。私自身は2回払い戻しをしたので、今日劇場に赴くことができたのは悲願の達成だとも言える。東京公演のアフトがなくなってしまったのは残念だが、作品を観られただけでも十分。未満ワールドを2時間しっかり堪能させてもらった。

 

 

~あらすじ~

 

双子の赤ちゃんのどちらかを捨てるシーンから物語は始まる。捨てられた方は旭太郎、捨てられなかった方が陽之介だ。

 

徳川の治の江戸時代。陽之介は幼少期の頃からの馴染みの友達・蔵近と話をしていた。蔵近は「人を殺すための剣」ではなくて「秩序を守るための剣」だと言う。「生きるための剣、か…」と噛み締める陽之介。日陰党に殺された兄・一郎太の仇を取るために刀を教えて欲しいと押し入ってきた邑麻兄弟をも払わず、陽之介は「生きるため」の剣術を教えることにした。

 

そんな彼は最近になってよく夢を見るようになった。夜だけではない、昼もだ。蔵近は「白昼夢か?」と言ったが、陽之介が見ていたのはもっとリアリティのあるーまるでもう一人の自分を見ているかのようなー夢であった。

 

その現象は日陰党の棟梁・旭太郎にも起きていた。自分に似た誰かが陽の道を浴びて生きている。関ヶ原の戦いで士道と闘って失明した座頭の衆は、陽之介に「見えないからこそ感じるものがある。お前は2人が重なり合って1人がいる」と言う。そこで旭太郎はその夢を確かめるため、日陰党討伐を目論む蔵近のもとへ千蛇をやった。「お前を日陰党と見なす」と蔵近は千蛇を斬ろうとするが、むしろ蔵近は千蛇に軽く斬られてしまい意識を失う。

 

討伐計画が漏れてしまった討伐軍。一方、日陰党の無残な残虐行為は加速する。陽之介に化した旭太郎は、邑麻兄弟が留守番をしていた間に陽之介の妻・富士やその子供・ひのすけ、たかを殺す。陽之介は殺意を覚え、本気で旭太郎を討伐しようと心に誓うのであった。

 

そんな日陰党に転機が訪れたのは、宇内道場を破ろうとしたときである。そこには、旭太郎と瓜二つの人物がいるのだ。彼に拾ってもらった伽羅や蒿雀はたまげ、旭太郎自身も動揺した。そのため、その後日陰党は落ち着くようになる。

 

その隙を狙おうと強行突破で討伐計画を実行する討伐軍。陽之介を味方につけたことで江戸中の武士が日陰党を打ち倒そうとするが、なかなか相手は手強い。ところが、日陰党の人員も次々と斬られ、ついに二郎太・三郎太が伽羅・蒿雀と対峙する。伽羅は邑麻兄弟に斬られたせいで重症を負い、その後陽之介に殺される。

 

彼は死に際、陽之介を陽之介にこう言った。

「よく見たら旭太郎じゃねぇか......お前は笑ったことがないと言ったな」

「だから笑うんだよ....キャハハハハハ...........もう疲れちまった....」

伽羅の死を前にして陽之介は自分に問う。

「俺は旭太郎なのか....?」

 

一度は逃げ切った蒿雀だったが、再び邑麻兄弟に捕まってしまう。すると、突然土下座して「見逃してくれ!せめち命だけは……!」と命乞いするのである。それを目の当たりにした二郎太は「....お前も同じ人間だったんだな。でもお前らに殺されたやつもみんな必死に生きてたんだよ」と叫んだ。

 

二郎太 「俺たちは陰と陽だ。分かり合うことも混じり合うこともできねぇんだよ」

 

蒿雀はこの言葉に触発され、狂気的に刀を振りかざすが最終的に邑麻兄弟に殺される。一郎太の敵をようやく取った二郎太。しかし....

 

「仇取っても虚しいだけじゃねぇか........人を殺すってこういうことなのか....?俺たちが宇内先生に習っていたのは人を殺すための剣なのか......?」

 

結局旭太郎を逃してしまい討伐は成功とはならなかった。ところが、江戸郊外に逃げたはずの彼が再び江戸に向かってきているというのである。

 

陽之介なのか、旭太郎なのか、もはや誰にもわからない。わかるとすれば......「漆黒の天だけがそのことを見ていた」

 

 

 

 

誰もが生きるためにもがき苦しんでいた。

 

今作では、映画で語られた話の前日譚且つその全貌が明らかになったという印象を受けた。日の道を生きてきた者であろうと、日の当たらぬ道を生きてきた者であろうと、誰しもが必死に生きようとしていた。特に生きることに執着していたのは後者だ。

 

「ただその日を生きるために生きてきた。生きるためには何だったってした」

 

口減らしのために捨てられた伽羅はこう言っていた。「俺たちは幸せになることを許されないのか」と嘆き、何をしても蔑視されると苦しみ、世話を焼いてくれる人もいないから似た者同士が身を寄せ合い結成されたのが日陰党である。その苦難の人生が一言で表されていたのが伽羅の「もう疲れちまった」という言葉ではないだろうか。直前までは甲高く笑っていた彼が急に暗い顔をして、下を向いてこう吐いた。本当にこの人たちは苦しんで、憎しみを抱えながら生きてきたのだなぁと思う。その負の感情を抱えているからか、門下生の師に対する尊敬の意は彼らの方が強く感じた。討伐隊に「旭太郎を返せ」と言っていたシーンが忘れられない。

 

 

 

陰と陽が交わる世界線など存在しない。

 

憎しみは日の道を歩いている者に向けられる。旭太郎は陽之介になろうとして彼を観察し続けた結果、自分が何者であるのかわからなくなり、陽之介の大切な家族を殺してしまう。この時、笑い方を知らない旭太郎の作った仮面が入れ替わり陽之介が持つようになったというのは映画で描かれている。

 

ところが、これらの憎悪や羨望を持っていた日陰党は日の道を歩いてきた者にこのような言葉で片付けられるのだ。

 

 「俺たちは陰と陽だ。分かり合うことも混じり合うこともできねぇんだよ」

 

日陰党がいかに傷ついたかということは計り知れない。彼らが幸福になれるかもしれないという一縷の望みを持ってこれまで残虐行為をしてきたからこそ、これを聞いて蒿雀は狂った。一瞬二郎太が「お前も同じ人間だったんだな」と同情したのは事実であるが、だからといって彼は蒿雀の乞いを受け入れようとはしなかったのである。最終的に蒿雀を斬った二郎太はその行為に苦しむ。仇を討つという名目で刀を習ってきたはずだったが、そのせいで自身が何をしているのか、何がしたかったのかを見失っていた。

 

 

双子の同一性

 

旭太郎に対して陽之介はどこか罪悪感をかかえていたのかもしれない。彼は旭太郎と対峙して「もし自分が捨てられた方だったら」と蔵近に相談していた。「もし自分がもうひとつの人生を歩んでいたら」というのは旭太郎も常に考えていたことではあるが、彼の場合はただひたすら妬み続けていた。

 

しかし、陽之介も妻子を奪われた時から妬みを抱くようになった。それが最も顕著に表れていたのは声である。陽之介と旭太郎を見分ける方法といえば、旭太郎の方が髪の毛の先が白く、声のトーンが暗いということだ。ところが、陽之介も暗くなったことによって、物語が終盤になればなるほどどっちがどっちなのかわからなくなる。陽之介と幼少期を共に過ごした蔵近でさえ惑っているのだ。唯一それを知っているのはお天道様だけである。

 

 

殺された陽之介の妻・富士は本当にできた女性だった。彼女が「貴方には信じる道を歩んでほしい」と彼に言ったことで、彼は士道の討伐隊に加わり状況が大きく動く。陽之介は富士のことを「できた妻だ」と自慢し、蔵近に惚気を聞かせるのである。一方蔵近は「一生妻はいらない」と主張したことで「変わり者」だと改めてレッテルを貼られるが、ここにはある種現在も残る固定概念が表れているように思う。蔵近が結婚を選択しなかった理由として「陽之介のそばにいるため」と邑麻兄弟は色目を使わぬよう忠告していたが、私自身の理解不足のためこのあたりがよく理解できなかった。もっと勉強せねば。

 

邑麻兄弟といえば、特に弟の方が陽之介のもとで学んだことで、成長を感じた。三郎太は道場に来た当初は二郎太に同意してるだけでどこか意思の弱さを感じていたが、日陰党を討伐する際は二郎太を励ますところも見られた。どの作品においても一人くらいはネタ枠がいるとストーリーをより楽しめると思うが、漆黒天では彼がこれに当てはまるのかなと。「俺死にたくねぇよぉ~」とチキンだったり、「ぽかぽかする〜」と可愛いこと言ってたり。

 

 

~アドリブ色の強かったシーン~

 

・陽之介の門下生(アンサンブル)に毎度はけるのが遅い者が一人。

陽之助「あんな門下生いたか?」

邑麻兄弟に頬を打たれ、 「親父にも殴られたことないのにっ!!!」

 


・陽之介に褒められて嬉しすぎて剣落として倒れ込む二郎太

「父ちゃんーー母ちゃんーー俺褒められたぞーーー!(中略)次の時代を担うのはお前らだって!!」←完全なる妄想。そこまで言ってない(笑)

その後の流れは、

三郎太「俺死ぬ気で稽古するから!」

二郎太「バカ!生きる気で稽古するんだよ!」

 


・陽之介と富士が抱き合ってるところ(陽之介が旭太郎と出会って心配になったため)に遭遇した邑麻兄弟

目を隠して、三郎太「目が取れる〜」←そんな力入れなくて大丈夫だから

 


・道場主を集めてるシーン(映画にもある)

「命を救ってもらって」のところで噛む陽之介。その後「三郎太」も甘噛み。

 

 

 

~演出~

 

・富士たちが殺される瞬間は暗転。しかし、直前は舞台全体に真っ赤な照明、暗転後は斬られる音が3回あったので妻子が殺されたと推測可能。

 

・照明が頻繁に客席にも当てられるスタイル。一体感や立体感が出て巻き込まれている感じがして面白かった。

 

・背景の大道具が照明の当て方によって全く別物に見える。オレンジだったら田舎で生い茂る普通の草に見えるし、カラフルだったら不気味な森にも見える。

 

・日陰党5人で後方に歩くシーン。赤の照明に照らされながら人間自体は影になってるので、めちゃくちゃかっこよかった。

 

・冒頭と一番最後、出演者で声揃えて台詞を言うシーン(上手:日陰党、下手:討伐軍)。圧倒的に男性陣が多い座組なので迫力があって良すぎた。

 

 

 

〜出演者の印象〜

 

・荒木さん

初見:不明(気付いた時には知ってた)

2役を見事に演じてた。結局どういう仕掛けになっていたかは分からなかったけど。刀ラジで樟太郎くんが「荒木さんの色気がすごい」って言ってたのを覚えてる。生で観てみると本当にすごい。声が低いので聞きやすい。声で2役分けるってすごいなぁ。膝立ちですがりつく伽羅を頭ポンして慰める陽之介イケメン。

 

・凌くん

初見:ID

7ORDER弟組とは既に共演済みの凌くん。ながつと並んだ時のサイズ感が可愛かった。やはり殺陣が滑らか。小さいのに重心がしっかりしてて殺陣も踊りも安定してる。

 

・ながつ

ネタ枠としての演技、とても良かったしハマってた。兄弟感を出すために映画撮影時には凌くんの楽屋行って「”あんちゃん”って呼んでもいいですか?」とか「タメ語でもいいですか?」と積極的にコミュニケーションを取っていた(マザランでの共演前)。彼にとって凌くんのイメージといえばIDのアンジーで、めちゃくちゃ怒ってる役だったから、今回の二郎太の演技見てすごいなと感心したらしい、、、があなたもすごいのよ。共演者さんは刀剣乱舞に出演してる人が多くて、未満さんも刀ステの演出をされていたりと周りには殺陣のプロばかり。そこで堂々と「一から(殺陣を)教えてください」って言えるながつ、本当に尊敬する。

 

・梅ちゃん

初見:キルミーアゲインのニコ生

私自身を舞台界隈へ誘ってくれた恩人。彼のおかげでカミシモと出会い、まーしーと出会い、この一年でたくさんの新しい世界に飛び込むことができた。梅ちゃん自身が面白いから(ろくまち参照。5人がバラエティーやってる中独自流を貫く超強者)、演技も面白い。色んな役どころをウメツ風にこなす。今回も鳥の真似して奇声上げてたし(ところがどっこい全く違和感なし)。

 

・祥平くん

初見:カミシモ

去年のモーツァルトホールぶりの祥平くん。ろくまちを見ているので久しぶり感はあまりしなかったけど(笑)、今回のビジュがとても好きだった。彼の特徴的な声がよく活きていた伽羅。周りがわりと大きい人が多いので、凌くんと並んで小柄枠。でも動きが大きいから存在感は大きい。「いてーーよーー俺いてーーーよーーー」が可愛かったひらがな喋り。個人的にながつとも打ち合ってたのが私得だった。とりあえず体張って叫ぶ姿がながつと重なる。2人ともパワータイプ(笑)はけるときは全速力!!!

 

・大悟くん

初見:ヒプステ

今回の役で一番好きだった千蛇(ちだ)ちゃん。7ORDERとはBoPで昨年共演してたけど私は配信勢だったので、実は今回初めて生で拝んだ。大きい。女方だけどがっしりしてて頼もしかった。座り方がもう女性。ながつより年下。最近ハマってるまほステも第一印象は大悟くんだったし、今年から始まった僕シェア(頌利くん目当てで見てた)では末っ子ポジションで先輩たちから愛されてて可愛い(おすすめ回は「おばあちゃんちが呉服屋」成人式の晴れ着が本当にイケメン)。今回が初めてのストレート作品ってことで、試行錯誤したところも多かったと思うけど、さすが殺陣は安心して見られる。多分これからもっとハマる。伽羅ちゃんに「おかすぞ」と言われ「あなたタイプじゃないのよ~」と答えたり、梅ちゃんに吹っ飛ばされる千蛇ちゃん良かった。2シーンくらいあった、梅ちゃんと殺陣するシーン。馬乗りになりながら転がり合ってたところは全力感があって迫力満点。