ここなっつぴぃす

紡いだ夢の先へ

ミュージカル「太平洋序曲」 観劇記録

f:id:kiminoyumetotomoni:20230331183726j:image

 

ミュージカル「太平洋序曲」

日生劇場

観劇日 2023年3月25日(土) 13:00

(予定上演時間 1時間45分)

開場 12:15 

1ベル 12:55 

2ベル 13:00 

公演・カテコ 13:00~14:43

 

 

 

~本編~

 

あらすじ

〜The Adbantages of Floating in the Middle of the Sea〜

世界の真ん中に佇む島国・日本。農耕民族で身分社会ではあったが、外国からの権威に脅かされることなく250年間彼らは平穏に暮らしていた。お辞儀と米と明日の繰り返し。

 

しかし、1853年7月、転機が訪れる。

事の始まりはジョン万次郎がアメリカから帰国してきたことだった。彼は日本から出たこと、そして外国から帰国したことの2回罪を犯したことから処刑が決まっていた。ところが彼は「日本にアメリカ軍が迫っている」と言う。13代将軍・徳川家定浦賀の下級幕臣であった香弥左衛門を浦賀奉行所の目付に任命し、アメリカ軍を帰すよう命令する。しかし、彼一人がペリーらの黒船に対抗したところで「ペリー様は重要人物としか話をしないんだ」と言われてしまい、追い返すことができなかった。


そこで帰国子女ということもあり英語ペラペラの万次郎を将軍と見立てることにして(処刑から解放される)香山とともにペリーの交渉に及ぶ。アメリカ軍はそこそこ偉い人(香山曰く“将軍の次に偉い人だ”)が来たと思い込んで、万次郎との交渉に応じた。軍艦を追い払うことはできなかったものの、祖国の土も踏まれず日本人の誇りも保てるということで浦賀の港に畳を敷いて小屋(後に燃やす)を作ってペリーを迎た日本。


その策は成功し、香山と万次郎(と弥左衛門)は帝から称えられ、万次郎は漁師から侍に身分をあげてもらう。これにて平和が戻ってきた!…とはいかず、再び黒船が現れてしまう(しかも前回より多い)。大砲を撃たれ、言われるがままにアメリカの貿易契約書にサインをしてしまう将軍(ちゃっかりアメリカからペンも頂戴する)。その後イギリス、オランダ、ロシア、フランスに次々と開国を迫られ、外国の脅威を目にし逆らえなかった日本はこうして開国に至るのであった。


一度港を開けてしまえば他国の文化や商品が続々と入ってくる。それに対する姿勢もそれぞれだ。異国の文化を積極的に取り入れる香山と侍魂(尊王攘夷)を貫く万次郎。当初心を通わせていた2人は次第に正反対の道を歩むようになった。

 

そんなある日のこと。将軍・家定を暗殺しようとする者が現れ、幕臣が次々と斬られてゆく。香山が銃を構えた先にいたのは…懐かしき友人・万次郎だった。「君が最初に開国に応じたではないか」と諭すも万次郎の決意は固い。香山は友人に銃を向けられず、家臣の刀を取って戦うことにしたが、結果的には万次郎に斬られてしまう。

 

時代は流れ、明治。明治天皇が欧化政策を取り、工場や機械など新しい商品が続々と日本に入って来た。かつての鎖国的な日本はもう存在しない。ようこそ、日本へ。

 

 

カーテンコール

・ダブルカテコ

 

1回目

アンサンブル→朝海さん→立石くん→廣瀬さん→山本さん→指揮者、オーケストラの順に拍手。最後に山本さん・廣瀬さん・立石くんが残ってお辞儀をした後、山本さん・立石くんは上手、廣瀬さんは下手にはける。

 

2回目(スタンディング)

最後は日替わりの3人に加え、朝海さんも一緒に4人で残って挨拶(はけ方は同じ)。1回目よりもニコニコでお手振りまでつけてくれた立石くん。

 

 

演出

・客電は落ちずにキャストがステージに登場。冒頭のシーンで徐々に暗くなっていく。

・舞台セットはキャストさんが動かしていく場面も。冒頭中央に置かれていた帝(日本人形)は立石万次郎が下手に動かす。

・ペリーが上がった小屋が燃やされるとき:ミニチュアみたいな小さい小屋が赤く光り(照らされ)煙が出てくる

・各国の提督は黒い船を腰につけて+その後ろに自国の旗をつけて登場

・『Someone in a Tree』で木に見立てられた壁は可動式で不安定なため、少年が降りるときはおじいちゃんが支えていたり

・香山と万次郎の一騎打ちはスローの殺陣

・一番最後のナンバーは東宝作品レベルの派手さで終わる

 

・上手に突出している階段、横から見るときゅっとスリムに見えて面白い。角度によって見え方が全く異なる。舞台美術に評判がある理由がわかったような気がする。

 

・アンサンブルの質がめちゃくちゃ高い。何人かソロを貰っているほど歌も上手いし演じ方も素敵だった。

 

 

劇場

・2階の前方にある手すりがとても細いため、視界が遮られにくく、手すりを気にせずに舞台上を見ることができた

・声がとても響くため台詞が聞き取りやすい。しかし反響しないためガツンと聞こえてこず、もわっと消える感が否めない

・終演後劇場内は追い出されるが、ロビーではゆっくりできる

 

 

その他

・オーケストラによる生演奏。開演前にはピッチングあり。終演後はオーケストラの演奏で退場。

・規制退場はなし

・当日券(U25)で2階B席に入れる

 

 

~レポート~

 

登場人物

(敬称略)

狂言回し山本耕史

物語-江戸時代後期まで-を把握し、進行していく役目。狂言回しが主人公なの面白かった。ずっと舞台上をうろうろしてる。香山や万次郎など他者のシーンの際は顔で芝居をしなくてはいけないため難しいところではあるが、山本さんは繊細に演じていらした。特に印象的なのは、話を見つめる目がとても優しい。

物語全体で一番衝撃的だったのは狂言回しが明治天皇だったこと。終盤で突然黒金の衣装(狂言回しの衣装よりも華やか)に変わって、積極的に西欧化したシーンは、明治期の日本の変遷というか忙しなさを感じることができた。

 

香山弥左衛門:廣瀬友祐

もとは下級武士だったが、ひょんなことから(上記参照)目付け役に昇格し、黒船を追い払おうと精進する。英語ができることから処刑される予定だった万次郎を傍に立て(手首の縄をほどく)、助言をもらいながら次第に心通わすようになる。途中で妻・たまてを亡くしたときには万次郎(下手)がペラペラ喋っている隣で悲しみに暮れる。開国した後は新しい妻をめとったり、また西欧化に走って万次郎と対立。最終的には旧友・万次郎に殺されてしまい、その後たまてのもとへ行き笑顔で見つめ合う。

 

ジョン万次郎::立石俊樹

日本から出国したこと、アメリカから帰ってきたことを罪に問われ、死刑になるところを香山に助けられる。アメリカ軍と同じテンションでペリーとの交渉に応じたり、交渉小屋を建てるなど大活躍したため、漁師から侍の身分に昇格する(隣の狂言回し・香山は「ははーっ」て頭下げてるけど、万次郎は状況をよく状況理解できてなさそう)。開国した後は国粋主義尊王攘夷に走り、結果的に香山を殺してしまうことに。彼を斬った後は苦虫を噛み潰したような微妙な表情をそのとき浮かない顔は忘れられない。「よくやった!」と帝に褒められるも渋い顔をする万次郎…自分の信念を曲げないある種の強さと旧友を殺してしまった咎の狭間で揺れているんだろうな。舞台上では尊王攘夷が勝っているが、明治期になってからは西欧化が進んでいく。

 

将軍・女将朝海ひかる

本来男性の役どころである将軍を女性の朝海さんが演じているのが斬新で面白かった。女将の際は他の女性4人に礼儀を叩きこんでいたり。

 

たまて:綿引さやか

夫・香山が目付に任命され2本目の刀を渡す時に、一度自分のもとに引っ張って引き留めようとするたまて。もの言いたげな目をするも結局は夫を送り出すが、次に夫が帰って来たときには真っ赤な帯で自害していたのであった。

 

観劇動機

・立石くん出演

・英国原作のミュージカル

 

立石のとしくんがまたまたグランドミュージカルに出演するということで情報解禁時から観劇を決めていた今作品。キャスティングも豪華で制作さんたちの本気度というかこの作品にかけている熱量を感じることができた。また、普段はストプレばかりなのでたまにはミュージカルも摂取したいなと思い、楽日に近い25日にU25のチケットで入ることに。

 

感想

ミュージカルミュージカルしておらず、本編の物語にはしっかり軸があって、ナンバーも自然に織り込まれているため不自然感がなく、良質な作品だった。要するに将軍や帝などのお偉いさんがポンコツでビビりのチキンだから外国船に立ち向かえない…だったら幕臣に任務を委託しよう!みたいなストーリー。そう考えると交渉に立ち向かった香山や万次郎の大和魂はすごい。彼らの方がよっぽど強いじゃん。

 

いい感じに笑えるシーンもあって良かった。香山に無理やりごっつい服を着せられて将軍と見立てられた万次郎、黙れと言っていたはずが急に万次郎が喋り始めて焦るも「なんとかなってるから」と言われるがままになる香山、ペリーとの交渉の途中で思い出したかのように万次郎にかぶせたまげ(帽子)をアンテナの如く立てた香山、『Welcome to Kanaggawa』でひとり雑に扱われる女性(4人目)…等々。そういや『Please Hello』でロシア提督だけ肩組んで踊ってなかった。ランスなんかめちゃくちゃおちゃらけてたっていうのに!触るな触るなばっか言ってないでもっと自分を解放して自由に踊ってください、とロシア提督に伝えたい。


ひとつ、理解できなかったのが冒頭のシーン。パーティーが開かれていてワインを持っている人がいたりバーテンダーの恰好をしている人がいたり。これは鎖国時の日本ではなく、作品が終わった数年・数十年後の未来の日本の姿をうつしていたのかな…?

 

 

物語縮小の話

初日直前になって発表された公演時間。本来はもっと長尺のはずなんだけど、色々な場面を削った1時間45分という尺にお怒りなさる方が多数現れ、何日もツイッターでトレンド入りしてしまう現象が生じる(いわゆる炎上)。ぶっちゃけ主は直近で観た作品が4時間という超大作で(『玉蜻』で検索してみてください)どんな尺にしろ短く感じるだろうから~という心持ちだったので、尺問題については全然気にならなかった。

実際に公演を観てみたら、肝心なところのナンバーはしっかり入っているし物語も理解できるのでわかりやすくまとめたなという印象。これだったら演劇初心者の方とかも飽きずに集中力が持続する良い感じの尺だなと。強いて言うなら香山と万次郎が別の道を辿り始めた経緯が読めず、何を起点にそういう思想を抱いたのかというシーンはあっても良かったかなぁとは思う。香山が「部下に万次郎を」みたいなことを言ったんだけど、結果的に万次郎は香山と反対の考えを持つわけで。まぁこれは英国版とか過去の日本公演を観たらわかるんだけどね。

 

 

英国版と日本語版について


今回は予習がてら、英国版の『Pacific Overtures』も見てみることに。そこで英詩と和訳を並べてみる。


『The Adbantages of Floating in the Middle of the Sea』


世界の真ん中で浮かぶ島国

世界から離れて浮かぶ島国


いつまでも栄よ我ら島国

日の流れからも遠い島国

朝陽のぼれば同じ明日が


In the middle of the world we float  In the middle of the sea

The realities remain remote  In the middle of the sea

Kings are burning somewhere  Wheels are turning somewhere

Trains are being run  Wars are being won Things are being done Somewhere out there  Not here...

(2:57)

 

 

『Poems』


香山「鳥が風が こだま」

香山「木々が揺れて」

 

香山&万次郎

「雨だれは流れ流れて 雨に帰る」

「日は君を照らすか はるかアメリカ」

「ああ月の影に思いは起こすは遠い国 アメリカ」

「ああ鳴く鳥が呼びかける ああむこうに? アメリカ」

香山「鳥と」

万次郎「朝」

香山「葉」

万次郎「光」

「「終わり」」

 

your turn

香山「どうだ」

万次郎「どうぞ」

 

 

『Welcome to Kanagawa』

「Welcome to 神奈川 楽しく~」

 

この時狂言回しが持っていた蒔絵はなかなか際どいやり方が書かれていたらしい(笑)

 

 

『Someone in a Tree』

この曲とても好きだった。おじいちゃんが自身の幼少期を振り返り、若かりし日の頃の自分とデュエットするシーン。「そこ(小屋=ペリーとの話し合い)で何が起きたかは誰にもわからない。でも、おじいちゃんが木の上で見ていたり、誰かが床下に隠れて聞き耳を立てていた」がテーマ。最後はおじいちゃんが木に登ったり、自分が乗っていた車いすに少年を乗せておじいちゃんが押したり、おじいちゃんが懐古して若返ってるんですよね。果たしてこの場面が江戸時代後期の時代に沿っているのか、それとも開国してしばらくした後なのかはわからないけど、とりあえずとてもほっこりする曲調と歌詞。

「「全て見た」」

おじいちゃん「その木の上で」

少年「僕は見た」

 

ゲネと違ったシーン→おじいちゃんと少年のデュエット:「♪葉~」のところで万次郎の肩の葉を落とすかのようなそぶりをして「葉」と言っていた(ゲネはそのような手ぶりはなし)

 

 

出演者の印象

山本耕史さん

初見:?

名前もお顔も幾度となく拝見したことある俳優さん。今回初めて目の当たりにしてみて、強い生命力を感じた。あのご年齢であんなパラフルにお芝居をされるの、本当にすごい。声からも存在感からも読み取れる貫禄。あと、稽古映像から見ていても思ったのですが、筋肉(特に胸板)もすごい。

 

廣瀬友祐さん

初見:太平洋序曲

今回観劇するにあたって海宝さんと迷ったけど結果的に廣瀬さんの公演に当たることになった。身体が大きいのでとても舞台映えする。万次郎くんのとしくんともバランスが取れていて良かった(そういや今回の日替わり俳優さんは大きいメンツが揃ってたな…)。お顔も綺麗だし歌も上手いし色々恵まれていてほんと羨ましい限り。

 

ここで海宝さんの話を少しさせていただくとなんと弟さんがあの元ジャニーズJr.の海宝潤くんでびっくりした。懐かしいなぁ元気にしてるかなぁ。ご兄弟揃って鼻筋が整ってらっしゃるのね。

 

立石俊樹くん

初見:サクセス荘3

サクセス荘だったりフレアバーテンダーズだったり壁サーだったりとこの一年ちょっとで色んな活動を追ってきたけど、なんだかんだ生でお会いするのは今回が初めて。冒頭のバーテンダーの恰好、遠矢が帰って来たのかと思った(参照:『FLAIR BARTENDER’Z』)。めちゃくちゃ歌上手いし、侍の恰好をしていてもわかる彫りの深さ。ダブルキャストのウエンツと身長差あるから浮かないかな…と思ってたけど廣瀬さんも高い方だから良かった。としくんと言えばロミジュリやエリザベートとミュージカル界隈に足を踏み入れているから、いつかエーステを降板しないかが心配。立石至めちゃくちゃ好きだし、原作の再現度すごい高いからずっと演っててほしい。